◎短評
○著書そのものが「戦略」的
うーん勝間和代さんもそうだが、この人も
「自著を売る」
という目的があり、そのために
・読者はどのような情報を求めていて、そのためにどういうテーマでどう書くか
・どのように宣伝するか、
という戦略がとても明確だ。そしてこの本がテーマにしているのは、その戦略の基礎となる考え方だ。つまり、この「あたらしい戦略の教科書」の内容のケーススタディが「あたらしい戦略の教科書」だったりして面白い。
○「戦略」とは
内容は日常的にはテレビゲームとマーケティング位でしか聞かない「戦略」を非常に分かり易く説明してくれている。では「戦略」とは何か?著者は以下のように説明する。
この本の内容は基本的に上記の3つの手順に集約されている。「戦略とは、現在地と目的地を結ぶルート」にたとえることができます。つまり「戦略」とは、いわば「旅行の計画」なのです。
旅行の計画を立てるときには、次のような手順で行うものではないでしょうか。
ステップ❶ 「現在地」を明らかにする
ステップ❷ 「目的地」を明らかにする
ステップ❸ 現在地と目的地を「結びつける方法(=戦略)」を考える
で、内容は現在組織改革中の部署に所属する下っ端プログラマーにとって、非常に興味深いものになっていた。
戦略的に物を考えることのみならず、それを実行する時の最大の障害であるだろう、人間関係の教科書でもある。内容の質、量ともにはじめてまともに戦略を学ぶ自分にとって申し分ないと思った。ということで、文句無く星五つ!
○目次と内容のメモとTNakの感想
はじめに
第1章 戦略とは何か?
1 戦略とは「旅行の計画」である
2 大学受験の戦略を考える
(1)「現在地」は、客観的な事実でできている
(2)「目的地」は、現在地に依存し、かつ幅のある「未来」
目的地と戦略はどちらも現在地に依存
「バックアッププラン」の準備
「目的地」はイベントによって変化
目的地によって「確認すべき現在地の内容」や「優先順位が変わる」
3 戦略は、時間とともに成長する
4 戦略における完璧主義のワナ
議論を尽くすのは不可能
5 戦略は中心メンバー選出から始まる
「我々は変わらなければならない」と考えていない人物が戦略プロジェクトの中心メンバーになることは致命的
・コラム 戦略と戦術の違いとは?
「戦術」は「現場の戦略」
第2章 現在地を把握する 〜情報収集と分析の手法〜
1 情報力が戦略を簡単にする
未来の手がかりは常に現在にある
2 集めるべき情報・行うべき分析とは何か?
スイートスポット(自社の強みと顧客のニーズの合致部分)を明らかにする
それを
(1)いかに有効利用するか(攻める戦略)
(2)いかに維持するか(守る戦略)
(3)いかに広げるか(成長させる戦略)
・コラム フェラーリの競合とは?
小型飛行機やヨット、2件目の家や絵画、宝石など「お金持ちのための嗜好品」
3 顧客情報こそキングである
顧客情報 > 自社情報 > 業界のマクロ動向 >競合情報
4 情報収集の3つのステップ
ステップ❶ ドライ情報(公開情報)をできる限りたくさん集める
ステップ❷ ドライ情報をベースにして、インタビューをする
インタビューのノウハウ
1:聞くべきこと = 「相手にとって重要な問題や気付き」
2:相手 = 社内であれば「現場よりの社員」 社外では「まだ自社の顧客になってくれていない人」
「なぜ、自社製品は他の人にはオススメできないのか」
3:基本テクニック
<<自己暗示をかける>> 相手の「教えてやろう」という気持ちを引き出すため、「自分はよくわかっていない」という暗示をかけて先入観なしで相手の話を聞けるようにする
<<一対一で行う>> 他の誰にも会話が聞こえないような心を開きやすい場所で、一対一で
<<語尾に注意する>> 「真実は語尾に宿る」
<<「沈黙のワナ」を利用する>> わざと沈黙を入れて、相手にそれを埋めたいというモチベーションを起こさせる
<<外国人にインタビューを任せる>> 英会話ができる日本人の「ヒケラカシたい欲求」を利用
<<情報通と競う>> 通は上司にアピールしているので、相手の上司と同席して通ぶりを競う
(TNak→なんという、インテリジェンスのセンスあふれるノウハウだろう!)
ステップ❸ 「Give 5乗」を実践する
あなたから情報を貰った人は、必ずあなたの持っていないウエット情報をもたらす
5 情報収集の現実
▼情報はいつだって足りない 「状況の3/4は霧の中」(クラウゼヴィッツ)
▼全体のわずか5%の「ウエットな事実」が武器となる
わからないことがあるのに、行動しなければならないからこそ、行動には常に決断が求められる
6 情報分析の基本
▼基本❶ 情報の「異常値」に注目する:タイムトレンドに注意
▼基本❷ ドライ情報とウエット情報の「食い違い」に注目する
▼基本❸ 情報の「信頼性」を常に疑う:重大な決断に際しては「裏を取る」
▼基本❹ 人間を観察する:顧客自身がまだ気が付いていない欲求を、顧客を注意深く観察することで見つけ出す
▼基本❺ 「ハインリッヒの法則」に注意する
「重大なトラブル」:「軽いクレーム」:「認識された小さな失敗」 = 「1:29:300」
重大なトラブルにつながる悪い情報をすばやく入手
▼基本❻ 「タイミング」を最優先させる
収集:分析=6:4位が普通。収集の方が楽しいので注意
▼基本❼ 「定性的な情報」(グラフ化できない情報)の存在を忘れない
第3章 目的地を決定する 〜目標設定の方法〜
1 目標は何のためにあるのか?
第一に、そこにいる人々のモチベーションを有効に高めることができる
2 目標設定の怖さを理解する
▼失敗は成功のための必要経費
高い目標をベースとした戦略のないところに、飛躍はありえない
3 戦略立案を刺激する優れた目標・5つの条件
▼条件❶ リーダーが設定した目標であること
目標が曖昧な改善案ばかりで、どこにも高い目標が無い組織は「リーダーシップのない組織」
▼条件❷ 3年程度の期間で到達したい目標であること
▼条件❸ 背伸びをすればギリギリ届くような高さの目標であること
▼条件❹ 測定できる目標であること
戦略に差が出るのは大局観においてではなく、その細部においてである
▼条件❺ 利他性のスパイスが入っていること
「社会に対して付加価値を提供し、その対価を得る」という行為は、利己的なだけのものではない
・コラム 「熟達目標」という考え方
「成績目標」周囲から能力の高さを認められることに価値をおく。「能力は固定」
「熟達目標」以前できなかったことが、できるようになることに価値をおく。「能力は伸ばせる」
これからの時代の目標のデザインには、厳しい成績目標を、いかにして達成可能な熟達目標に翻訳していくのかという始点が求められる
第4章 ルートを選定する 〜戦略立案の方法〜
1 戦略は本当に必要なのか?
種戦略:多くの人を巻き込み、実際のビジネス環境の変化と実行の中で新たに見つかった情報をフィードバックしながら頻繁に修正され、最終的に巨大な戦略プロジェクトとして完成する
(TNak → ソフトウェア開発手法でいうところのアジャイルに似ている?)
▼コミュニケーションは戦略を軸に活性化する
「戦略という旗」のない組織では、フィードバックやアイデアは、ウエット情報として、どこかで誰かに大切に保管されてしまい、大規模にシェアされることはありません。
2 スイート・スポットをシェアし、戦略を育てる
▼「攻め」の戦略=現在のスイートスポットをいかにして有効利用するか
「強み」を絶え間なくアップグレードするための方法論を確立する
▼「守り」の戦略=現在のスイートスポットをいかにして維持するのか
最高の営業マンとは、「満足した顧客」
まず「既存の顧客を大切にする」
「自社にしかできないこと」を競合にコピーされてしまわないような努力
▼「成長」の戦略=将来的にスイートスポットをいかにして広げていくか
自分たちの「構造的な問題を解決する」 人が変わらないと、組織の枠組みだけを変えても、本当の意味で組織は変われない
(TNak→昔は自分もシステムを変えれば人も組織も変わると思っていたが、人が変わるのは難しいと思い始めた。『ビジョナリー・カンパニー2』では"right(disciplined) people"(適切な、規律ある、訓練された人々)をやたら強調していた意味を実感しつつある今日この頃。人を変えるのはコストが大きい。)
これまでになかった「新しい能力を獲得する」 将来に関する大戦略の立案においては、尖った少数意見を大切にする
3 新しいアイデアが本当に求められるとき
▼あたらしいアイデアをあれこれと考える前に
他人によってすでに成功することが証明されたアイデアは、まずコピーを考える
本当の意味で特殊な問題というのは、それほど多くない
▼あたらしいアイデアは、トレードオフを解消させるためにこそ求められる
「ブレイクスルー」とは、それまではトレードオフだと思われていたことを、これまでになかったあたらしいアイデア一発で解消してしまうという行為
「矛盾とは、ブレイクスルーの母」
何事もいちいちブレインストーミングをするのではなく、克服すれば大きな成果につながる矛盾のリストを作り、そうした矛盾の一つひとつについてアイデアを募る
▼あたらしいアイデアを生み出すには?
「異なる文化」の人の意見を活かす
・コラム 戦略の立案力を養うトレーニング
「何の関係もなさそうな2つの事象について、その共通点を探す」
(TNak→今読んでるグレゴリー・ベイトソンの「精神と自然」
4 クイック・ウィンのテスト・ケースを走らせる
クイック・ウィン:簡単に実現できるアイデアで、業績へのインパクトも大きいものをテスト・ケースとして実行し、フェード・バックを得て後の本格的な戦略の実行へ移す。
5 立案される戦略の構造
▼計画表は、細かい作業に分割して書かなくてはイケナイ
「100%ルール」:分解した要素を合わせたら、元の100%全てをカバーしなければならない
▼計画表には、計画だけ書いてはイケナイ
「作業が完了する日(=完了日)」が命!
(1)計画上の完了日:十分余裕を持たせておくべき
(2)現時点で最も正確な予測としての完了日:プロジェクトのメンバー間で共有
(3)実際の完了日
(TNak→これは最近自分がJoel Spolskyさんのものを参考に取り組み始めた「作業リスト」の項目そのものではないか!参照エントリー:日記080819:夏休み明け、作業リスト。)
6 やめるべきことを常に探す
「限られた資源」を、自分たちの「強み」を最も活かすことができる製品に集中させることが、優れた戦略の基本です。
▼無難であることは、一流になることの敵である
7 リスク対策と、代替案の準備を忘れずに
▼まずは存在するリスクを知り、できる対策は取っておく
起こりうるリスクを洗い出し、2軸のグラフにプロット
x軸:戦略全体へのインパクト
y軸:発生確率
特定された「重大なリスク」に対して「取り得る事前の対策」と「事後の対策」を考えておく
▼バックアップ・シナリオが生み出す高度な戦略立案の方法
「シナリオプランニング」:複数の選択についてそれぞれ戦略を考え、そうした戦略プランの中に「共通するアクション」を見出して、それを他のアクションよりも優先させる。
(TNak→自分が今年の情報処理の試験で、春に「テクニカルエンジニア:情報セキュリティ」を選んだのは、落ちた時(注:落ちた)に秋に「テクニカルエンジニア:ネットワーク」を受験することにすれば、勉強内容に共通する部分が大きいからというのがあった。自分は「シナリオ・プランニング」をしていたのかw)
8 戦略のキャッチ・コピーを考える
「ストラテジック・プリンシプル(戦略方針)」:戦略のエッセンスを「短くて覚えやすいフレーズ」にまとめて関係者の間で広く共有することで、戦略プロジェクトに関わる人から戦略に沿った行動を引き出す
▼ストラテジック・プリンシプルで戦略を現場に売り込む
3つのポイント
(1)全社の部門を超えて、「集中すべきポイント」が明確になっている
(2)社員の行動が正しいものであるかどうかを「判断する基準」になる
(3)「具体的な方向性」を示しつつも、そこから先の「判断は個々の現場」に任せる
例;GE 「市場で1位、または2位を占める。さもなければ撤退する」
日東電工「グローバルニッチトップ」
第5章 戦略の実行を成功させる
絵に描いた餅にならないために
1 人を説得するための方法論を知る
説得する相手の考え方や価値観の特徴に合わせて、こちらの出方を変えていく
▼相手を直感的に理解する手法「タイプ分け」
CSI(=Communication Style Inventory)の4つのタイプ
▼タイプ❶ コントローラー(専制君主タイプ) 感情が表に出ない/自己主張が強い
説得する時:「単刀直入に結論から話し、客観的なゴールを見せ、判断は任せる」
ゲーム感覚で反論してくるので「堂々と受けて立つ」
リーダーになると:周囲から恐れられる
▼タイプ❷ プロモーター(自由奔放タイプ) 感情が表に出る/自己主張が強い
「社交的、自発的でエネルギッシュ」
「あきっぽく、どんぶり勘定」
変化や混乱に強いので、「序盤戦で非常に力強い味方になってくれる」が、後半には飽きてるかも
説得する時:「ビジュアル・イメージを駆使して壮大な夢を語り、戦略プロジェクトがいかに注目されているかを強調する」
話は「やや大げさにあいづちを2度打つような態度」で聞くときっと味方になってくれる
リーダーになると:「華やか」
▼タイプ❸ サポーター(縁の下の力持ちタイプ) 感情が表に出る/自己主張が弱い
「人間関係を重視」し、人との争いを好まない、「気配りの人」
潜在的には他人からの感謝や愛情を求めている
説得する時;「みんなもやってるから一緒にやろう」
リーダーになると:八方美人な調整型
▼タイプ❹ アナライザー(求道者タイプ) 感情が表に出ない/自己主張が弱い
「行動の前に多くの情報を集めて分析し、きちんと計画を立てる」
堅実だが当事者意識に欠けることもある
新しい情報を見つけてきては「戦略をより堅固なものに育ててくれる人」なので、なんとしてもプロジェクトに巻き込む必要がある
説得する時:「ロジカルに戦略のポジティブな面とネガティブな面の両方を語り、事実と推測の前提条件をはっきりさせて、なるべく具体的なデータを示す」
リーダーになると:「教授や研究所の所長、職人の親方のよう」
参照:『図解 コーチング流タイプ分けを知ってアプローチするとうまくいく』
2 組織トップのコミットメントをマネジメントする
「プロジェクトはトップのお墨付きである」という状態を確実にキープする
トップのタイプ別アプローチ
▼臆病なトップ
「今、○○になっています。これから△△するつもりです」と簡素に報告だけをする
トップの責任をグレーゾーンを作るが、周囲はトップの意向のお墨付きを貰っているように見える
▼勇敢なトップ(ワンマン)
実行すべき戦略や優れたアイデアは、とにかくトップ自らの口で発言させる
トップが仕事を抱えすぎないように、権限委譲の誘導をする
プライオリティーを下げられた場合はタイミングの重要性を強調する
▼誰がトップかわからない場合
プロジェクトが大々的に社内で宣伝される前に、必ずできる限り多数の有力者から、プロジェクトへの協力を「暗黙の了解」という形で取り付ける(十分な根回し)が求められる
3 組織内で、危機感と希望を共有する
変化を受け入れさせるには「現状維持のほうが、戦略を実行するより危険であり、かつ変化の先にはまだ希望(もしくは利益)がある」と認識させる
▼情緒に訴え、既得権をはがしていく
・コラム 魔法の数字 7±2
短期記憶:人間がある「意味のまとまり(チャンク)」を見せられた場合、だいたい7±2までしか短期記憶化できない
(TNak→人間の基本的な能力はそんなに変わらない。大事なのは教育、訓練だと思う。啓蒙主義ってやつ?)
4 情熱の伝染を起こす
▼「情熱」はなぜ空回りするのか?
人間の正義感とは、「自らが十分に世間から認められていない」という「不遇感」を埋め合わせるために発露することが多々ある
(TNak→居る居るそんな人www・・・自分も気をつけないと)
▼情熱の伝染に言葉はいらない!?
自らの情熱を実際の行動や態度で示す
5 組織内に、「やさしい空気」をつくりだす
▼相手を理解したい気持ちを態度で示す
「理解しようとしているか」が決定的に重要
▼やさしい空気の作り方❶ 笑う
▼やさしい空気の作り方❷ 「やわらかさ」を取り入れる
女性
暖色
▼やさしい空気の作り方❸ 相手の「心」を聞き取る
重要な話だと感じたときに、「真剣に聞いている」という態度が取れるかどうか
6 戦略の実行に反対する人々との戦い
▼戦略の実行に反対はつきもの
いかに相手側が厳しい態度を取ろうとも、こちらは、反対派を決して遠ざけないという態度が鍵
▼「彼ら」という表現を封印する
敵の連帯を防ぐ。「彼ら」という表現が漏れると、敵勢力は勢いづく。
▼反対する人々を孤立させる2つの方法
最も「声の大きな人」を個別に説得する
できない場合は取り巻きを個別に説得し、声の大きな人を孤立させる
▼戦略に反対する人の問題解決を考える
相手に「貸し」を作る
7 戦略の実行に使えるノウハウ集
▼ノウハウ❶ アドバイスは最小限とする
アドバイスは、たとえ的確なものだとしても、まず採用されない
▼ノウハウ❷ 非公式に朝のブリーフィングを行う
(TNak→うちのチームも最近日時ミーティングを始めました。やはり考えることは皆同じか)
▼ノウハウ❸ 仕事の割り振りには、手を挙げさせる
▼ノウハウ❹ 進行状況をマラソンに例える
プロジェクトの進行状況は、「あとどれだけ仕事が残っているのか」という視点で把握する
▼ノウハウ❺プロジェクトの成果は政治的なツールとする
最も政治的に遠い立場にある人の手柄とすることで、相手に心理的な「貸し」を与え、協力者の幅を増やす
・コラム カーナビに学ぶ戦略の実務
「なんであそこで曲がらんねん、ボケえー」とかは言わず、いつでも最適なルートを再計算するカーナビに人類は学ぶべき
あとがき
「現状を認識し、目標を定め、それらを結ぶ」
本書の内容の「何を無視すべきか」という意識を持って、実務に当たるべし
(TNak→Peter Gabrielの名曲「Solsbury Hill」の一節"which connection I should cut"を思い出した。今回の一曲決定!)
付録 さらに戦略の理解を深めたい人のための書籍&DVD
主な参考文献
◎今回の一曲
Peter Gabriel/「Solsbury Hill」
あとがきの感想の通り、"which connection I should cut"ということで。
